内容
監修医師
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません.  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.

QT延長症候群とは

QT延長症候群 (LQTS) は、心筋再分極異常によるQT時間延長と、 トルサード・ド・ポアント (TdP) と呼ばれる特徴的な多型性心室頻拍が出現し、 失神や突然死の原因となりうる症候群のこと。 先天性と後天性に分かれる。

QTc > 456msecをQT延長と呼ぶことが多い。 QTc > 500msecは、 致死的不整脈から突然死を来すリスクが高いとされる

先天性QT延長症候群

Jervell, Lange-Nielsen症候群

聾を伴い常染色体劣性遺伝を示す

Romano-Ward症候群など

聾を伴わずに常染色体優性遺伝を示す

▼診断基準と分類

いくつかの原因遺伝子が特定されている。 先天性QT延長症候群のうち80%は、QT延長症候群1型 (LQT1)、 2型 (LQT2)、 3型 (LQT3)のいずれかに分類される。 

2013年のHRS/EHRA/ APHRS合同ステートメントでは、 先天性LQTSリスクスコア (Schwartzらの診断基準) ≧3.5点、 先天性LQTS関連遺伝子に明らかな病的変異を認める、 あるいはQTc≧500 msec、 のいずれかを認める場合、 先天性LQTSと診断する。 先天性LQTS関連遺伝子に変異を認めず、 説明のつかない失神を認める例において、 QTcが480~499 msecの場合も、 先天性LQTSの可能性が高い。

先天性LQTSリスクスコア (Schwartzらの診断基準)
QT延長症候群 (LQTS)

合計3.5点以上で診断確実、 1.5~3点で疑診、 1点以下で可能性が低いと分類される

後天性QT延長症候群

もともとQT延長はないか軽度であるが、 外的要因 (薬剤、 徐脈、 低カリウム血症、 心不全など) によって著明なQT延長とそれに伴うTdPを呈する症候群と定義される (原因遺伝子の検出率は25%程度)

QTcとは 🔢計算ツールはこちら

QT延長症候群 (LQTS)

QT correction (補正QT時間、QTc) は、 実測QT時間 (以下、QTと表記) を心拍数で補正した値である。 補正式によりQTcBやQTcFが知られている。

Bazett補正式 (QTcB)

QTcB = QT/ √RR
  • 計算式がシンプルかつ簡便で、 頻用される
  • 単に「QTc」と言えばQTcBを指す事が多い
  • QTcFに比べ、頻脈、徐脈共に過補正される

Fridericia補正式 (QTcF)

QTcF = QT/ ³√RR
  • Bazett補正式より過補正が少なくより正確
  • 一方、 計算式が煩雑である
  • FLT3阻害薬投与の際はQTcFを用いる

薬剤性QT延長症候群

心筋細胞において、活動電位第3相(後期再分極相)では遅延整流K⁺チャネルを介したK⁺流出が起こっている. これを抑制する薬剤は、 結果としてQT延長を起こす¹⁾ ²⁾ ³⁾.

① 抗不整脈薬

  • アミオダロン (アンカロン®)
  • ソタロール (ソタコール®)
  • ニフェカラント (シンビット®)
  • キニジン
  • ジソピラミド (リスモダン®)
  • プロカインアミド (アミサリン®)
  • ベプリジル (ベプリコール®)

②抗菌薬、 抗真菌薬

  • クラリスロマイシン (クラリス®)
  • エリスロマイシン (エリスロシン®)
  • レボフロキサシン (クラビット®)
  • モキシフロキサシン (アベロックス®)
  • ガチフロキサシン (ガチフロ®)
  • スルファメトキサゾール (バクタ®) 
  • フルコナゾール (ジフルカン®)

③抗うつ薬、 抗精神病薬

 三環系

  • アミトリプチリン (トリプタノール®)
  • ノルトリプチン (ノリトレン®)
  • イミプラミン (トフラニール®)
  • クロミプラミン (アナフラニール®)

 四環系

  • マプロチリン (ルジオミール®)

 抗精神病薬

  • クロルプロマジン (コントミン®)
  • ピモジド (オーラップ®)
  • ハロペリドール (セレネース®)
  • リスペリドン (リスパダール®)
  • オランザピン (ジプレキサ®)
  • クエチアピン (セロクエル®)

 SSRI

  • S-シタロプラム (レクサプロ®)
  • セルトラリン (ジェイゾロフト®)
  • フルボキサミン (ルボックス®、 デプロメール®)

④第一世代抗ヒスタミン薬

  • ジフェンヒドラミン (レスタミン®)
  • プロメタジン (ピレチア®、 ヒベルナ®)
  • ヒドロキシジン (アタラックス®)

⑤抗がん剤

 チロシンキナーゼ阻害薬

  • ギルテリチニブ (ゾスパタ®)
  • キザルチニブ (ヴァンフリタ®)
  • スニチニブ (スーテント®)
  • ソラフェニブ (ネクサバール®)
  • イマチニブ(グリベック®)
  • エルロチニブ (タルセバ®)
  • ゲフィチニブ (イレッサ®)
  • アファチニブ (ジオトリフ®)
  • エヌトレクチニブ (ロズリートレク®)
  • バンデタニブ (カプレルサ®)

 SERM

  • タモキシフェン (ノルバデックス®)
  • トレミフェン (フェアストン®)

 その他

  • 三酸化二ヒ素 (トリセノックス®)
  • 5-FU
  • アンスラサイクリン系全般

⑥その他

  • チアプリド (グラマリール®)
  • アマンタジン (シンメトレル®)
  • チザニジン (テルネリン®)
  • プロピベリン (バップフォー®)
  • ミラベグロン (ベタニス®)
  • ドネペジル (アリセプト®)
  • タクロリムス (プログラフ®)
  • リバスチグミン (イクセロン®、 リバスタッチ®)

治療

急性期治療

蘇生についてはACLS、PALSに準じる

VFに移行した場合は,ただちに電気的除細動が必要となる。

TdPの発作時の治療にはマグネシウムの有用性が示唆されている.

  • 成人 : 1~2gを10~20分で静注/骨髄内投与
  • 小児 : 25~50mg/kg (最大2g) を10~20分で静注/骨髄内投与
  • 心停止となった多形性VT(torsades de pointes) にはより速く投与

患者によっては、 β遮断薬 (プロプラノロール) の静注や、 抗不整脈薬 (リドカインおよびメキシレチン) あるいはCa拮抗薬 (ベラパミル) がTdP 停止に有効なこともある。 その他、 原因薬剤の中止、 電解質補正、 一時的ペースメーカーによる徐脈改善を行う

予防的治療

β遮断薬経口内服や生活指導を行うが、 その適応も含め専門医コンサルト

出典

  1. 日本循環器学会 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン (2017 年改訂版)
  2. ヒト用医薬品の心室再分極遅延 (QT間隔延長) の潜在的可能性に関する非臨床的評価について (薬食審査発1023第4号)
  3. 日本薬学会 薬学用語解説
  4. Br J Clin Pharmacol. 2002; 54(2): 188–202.
  5. Ann Pharmacother. 2013;47(10):1330-41.
  6. Br J Cancer. 2015 Mar 17;112(6):1011-6.

最終更新 : 2024年3月24日
監修医師 : 聖路加国際病院救急部 清水真人

QT延長症候群 (LQTS)
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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QT延長症候群 (LQTS)
QT延長症候群 (LQTS)

QT延長症候群 (LQTS)

Long QT Syndrome
2021年10月20日更新
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません.  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.

QT延長症候群とは

QT延長症候群 (LQTS) は、心筋再分極異常によるQT時間延長と、 トルサード・ド・ポアント (TdP) と呼ばれる特徴的な多型性心室頻拍が出現し、 失神や突然死の原因となりうる症候群のこと。 先天性と後天性に分かれる。

QTc > 456msecをQT延長と呼ぶことが多い。 QTc > 500msecは、 致死的不整脈から突然死を来すリスクが高いとされる

先天性QT延長症候群

Jervell, Lange-Nielsen症候群

聾を伴い常染色体劣性遺伝を示す

Romano-Ward症候群など

聾を伴わずに常染色体優性遺伝を示す

▼診断基準と分類

いくつかの原因遺伝子が特定されている。 先天性QT延長症候群のうち80%は、QT延長症候群1型 (LQT1)、 2型 (LQT2)、 3型 (LQT3)のいずれかに分類される。 

2013年のHRS/EHRA/ APHRS合同ステートメントでは、 先天性LQTSリスクスコア (Schwartzらの診断基準) ≧3.5点、 先天性LQTS関連遺伝子に明らかな病的変異を認める、 あるいはQTc≧500 msec、 のいずれかを認める場合、 先天性LQTSと診断する。 先天性LQTS関連遺伝子に変異を認めず、 説明のつかない失神を認める例において、 QTcが480~499 msecの場合も、 先天性LQTSの可能性が高い。

先天性LQTSリスクスコア (Schwartzらの診断基準)
QT延長症候群 (LQTS)

合計3.5点以上で診断確実、 1.5~3点で疑診、 1点以下で可能性が低いと分類される

後天性QT延長症候群

もともとQT延長はないか軽度であるが、 外的要因 (薬剤、 徐脈、 低カリウム血症、 心不全など) によって著明なQT延長とそれに伴うTdPを呈する症候群と定義される (原因遺伝子の検出率は25%程度)

QTcとは 🔢計算ツールはこちら

QT延長症候群 (LQTS)

QT correction (補正QT時間、QTc) は、 実測QT時間 (以下、QTと表記) を心拍数で補正した値である。 補正式によりQTcBやQTcFが知られている。

Bazett補正式 (QTcB)

QTcB = QT/ √RR
  • 計算式がシンプルかつ簡便で、 頻用される
  • 単に「QTc」と言えばQTcBを指す事が多い
  • QTcFに比べ、頻脈、徐脈共に過補正される

Fridericia補正式 (QTcF)

QTcF = QT/ ³√RR
  • Bazett補正式より過補正が少なくより正確
  • 一方、 計算式が煩雑である
  • FLT3阻害薬投与の際はQTcFを用いる

薬剤性QT延長症候群

心筋細胞において、活動電位第3相(後期再分極相)では遅延整流K⁺チャネルを介したK⁺流出が起こっている. これを抑制する薬剤は、 結果としてQT延長を起こす¹⁾ ²⁾ ³⁾.

① 抗不整脈薬

  • アミオダロン (アンカロン®)
  • ソタロール (ソタコール®)
  • ニフェカラント (シンビット®)
  • キニジン
  • ジソピラミド (リスモダン®)
  • プロカインアミド (アミサリン®)
  • ベプリジル (ベプリコール®)

②抗菌薬、 抗真菌薬

  • クラリスロマイシン (クラリス®)
  • エリスロマイシン (エリスロシン®)
  • レボフロキサシン (クラビット®)
  • モキシフロキサシン (アベロックス®)
  • ガチフロキサシン (ガチフロ®)
  • スルファメトキサゾール (バクタ®) 
  • フルコナゾール (ジフルカン®)

③抗うつ薬、 抗精神病薬

 三環系

  • アミトリプチリン (トリプタノール®)
  • ノルトリプチン (ノリトレン®)
  • イミプラミン (トフラニール®)
  • クロミプラミン (アナフラニール®)

 四環系

  • マプロチリン (ルジオミール®)

 抗精神病薬

  • クロルプロマジン (コントミン®)
  • ピモジド (オーラップ®)
  • ハロペリドール (セレネース®)
  • リスペリドン (リスパダール®)
  • オランザピン (ジプレキサ®)
  • クエチアピン (セロクエル®)

 SSRI

  • S-シタロプラム (レクサプロ®)
  • セルトラリン (ジェイゾロフト®)
  • フルボキサミン (ルボックス®、 デプロメール®)

④第一世代抗ヒスタミン薬

  • ジフェンヒドラミン (レスタミン®)
  • プロメタジン (ピレチア®、 ヒベルナ®)
  • ヒドロキシジン (アタラックス®)

⑤抗がん剤

 チロシンキナーゼ阻害薬

  • ギルテリチニブ (ゾスパタ®)
  • キザルチニブ (ヴァンフリタ®)
  • スニチニブ (スーテント®)
  • ソラフェニブ (ネクサバール®)
  • イマチニブ(グリベック®)
  • エルロチニブ (タルセバ®)
  • ゲフィチニブ (イレッサ®)
  • アファチニブ (ジオトリフ®)
  • エヌトレクチニブ (ロズリートレク®)
  • バンデタニブ (カプレルサ®)

 SERM

  • タモキシフェン (ノルバデックス®)
  • トレミフェン (フェアストン®)

 その他

  • 三酸化二ヒ素 (トリセノックス®)
  • 5-FU
  • アンスラサイクリン系全般

⑥その他

  • チアプリド (グラマリール®)
  • アマンタジン (シンメトレル®)
  • チザニジン (テルネリン®)
  • プロピベリン (バップフォー®)
  • ミラベグロン (ベタニス®)
  • ドネペジル (アリセプト®)
  • タクロリムス (プログラフ®)
  • リバスチグミン (イクセロン®、 リバスタッチ®)

治療

急性期治療

蘇生についてはACLS、PALSに準じる

VFに移行した場合は,ただちに電気的除細動が必要となる。

TdPの発作時の治療にはマグネシウムの有用性が示唆されている.

  • 成人 : 1~2gを10~20分で静注/骨髄内投与
  • 小児 : 25~50mg/kg (最大2g) を10~20分で静注/骨髄内投与
  • 心停止となった多形性VT(torsades de pointes) にはより速く投与

患者によっては、 β遮断薬 (プロプラノロール) の静注や、 抗不整脈薬 (リドカインおよびメキシレチン) あるいはCa拮抗薬 (ベラパミル) がTdP 停止に有効なこともある。 その他、 原因薬剤の中止、 電解質補正、 一時的ペースメーカーによる徐脈改善を行う

予防的治療

β遮断薬経口内服や生活指導を行うが、 その適応も含め専門医コンサルト

出典

  1. 日本循環器学会 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン (2017 年改訂版)
  2. ヒト用医薬品の心室再分極遅延 (QT間隔延長) の潜在的可能性に関する非臨床的評価について (薬食審査発1023第4号)
  3. 日本薬学会 薬学用語解説
  4. Br J Clin Pharmacol. 2002; 54(2): 188–202.
  5. Ann Pharmacother. 2013;47(10):1330-41.
  6. Br J Cancer. 2015 Mar 17;112(6):1011-6.

最終更新 : 2024年3月24日
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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