2023年5~8月の注目論文を読み解く 〜上部消化管編〜
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HOKUTO編集部

8ヶ月前

2023年5~8月の注目論文を読み解く 〜上部消化管編〜

2023年5~8月の注目論文を読み解く 〜上部消化管編〜
胃・食道癌領域において、直近3カ月ほどの間に発表された論文の中から、 特に薬物療法に関するトピックスとしておさえておきたい3編を紹介する (2023年8月版)

前回の注目論文解説はこちら

・ 「腹腔鏡下幽門側胃切除術」が胃癌の標準術式に
・ 中国発の抗PD-1抗体「tislelizumab」が食道癌一次治療で奏効
・ 抗Claudin 18.2抗体 zolbetuximab+FOLFOXが一次治療へ

ドセタキセル上乗せ効果の長期持続が明確に

Ⅲ期胃癌の術後ドセタキセル+S-1療法を確立したJACCRO GC-07試験の5年OSの最終結果

Yasuhiro Kodera, et al: Addition of docetaxel to S-1 results in significantly superior 5-year survival outcomes in Stage III gastric cancer: a final report of the JACCRO GC-07 study. Gastric Cancer 2023年8月7日オンライン版

2007年に発表されたACTS-GC以来、 進行胃癌術後補助療法の標準治療はS-1単独治療だったが、 Ⅲ期症例における再発抑制効果は不十分であった。 JACCRO GC-07試験においてドセタキセルの上乗せ効果が証明され、 最新の胃癌治療ガイドラインにも採用されている¹⁾。

JACCRO GC-07試験については、 既に3年フォローアップデータが報告されているが²⁾、 本論文では5年フォローアップデータと3年目以降の再発形式について解析している。 結果、 S-1+ドセタキセル群の 5年全生存率(67.91%) は、 S-1 群(60.27%) よりも有意に優れていた(HR 0.752、 95%CI 0.613-0.922; p=0.0059) 一方で、 無作為化後 3 年以上経過した晩期再発の発生率は両群で同様であった(7.3% vs 7.2%)。

食道癌・胃癌の術前後の補助療法に関する考え方には一定の類似点があり、 従来の5-FU+シスプラチン(CDDP)による2剤併用治療と比較してドセタキセルを加えた3剤併用治療の優越性が注目されている。 欧米ではFLOT療(ドセタキセル+オキサリプラチン+ホリナートカルシウム+5-FU)、 日本ではDCF(ドセタキセル+CDDP+5-FU)療法(またはDCS療法[ドセタキセル+CDDP+S-1])として、 臨床現場でも徐々に一般化しつつある。

本論文の意義は、 3年目におけるドセタキセルの上乗せ効果が5年目まで持続することが明確となったことにある。 残念ながら、 3年目以降の再発を抑制する効果は認められなかったことから、 相対的に緩徐に増殖する癌細胞クローンに対しては、 ドセタキセルの上乗せ効果は限定的であると推測できる。 

ニボルマブによる補助療法の上乗せ効果が期待されたが、 今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)で発表されたATTRACTION-5試験の結果から、残念ながら優越性は乏しい結果と報告されており³⁾、 晩期再発抑制のためには、 さらなる補助療法の工夫が必要と思われる。

zolbetuximabが進行再発胃癌の1次治療の選択肢に

CAPOX+zolbetuximabでmG/GEJのPFS・OS延長:第Ⅲ相GLOW

Manish A Shah, et al: Zolbetuximab plus CAPOX in CLDN18.2-positive gastric or gastroesophageal junction adenocarcinoma: the randomized, phase 3 GLOW trial. Nat Med 2023 Aug;29(8):2133-2141.

膜貫通型タンパク質 Claudin(CLDN)18.2陽性胃癌を対象に、 化学療法に対する抗CLDN18.2モノクローナル抗体zolbetuximabの上乗せ効果を検証した第Ⅲ相試験である。 すでにSPTLIGHT試験⁴⁾においてmFOLOFOX療法への上乗せ効果が確認されているが、 このGLOW試験では、 CAPOX療法(オキサリプラチン+カペシタビン)への上乗せ効果が検証された。

結果、 無増悪生存期間(HR= 0.687、 P=0.0007)および全生存期間 (HR=0.771、 P=0.0118)で優越性が証明された。 得られたHRは、 SPOTLIGHT試験で得られたHRとほぼ同等であった。

SPTLIGHT試験、 GLOW試験のいずれの結果でも、 1年目の優越性が2年目以降まで維持されていることは、 チェックポイント阻害薬と同様に大変有望な薬剤と評価できる。 これら2試験のサブグループ解析の結果で共通する傾向としては、 奏効率は対照群と同様、 アジア人種で良好、 胃切除後症例で良好、 接合部で不良という点が認められる。

標的分子であるCLDN18.2は正常組織では胃粘膜のみで発現しているため、 有害事象において、 非切除症例では、 悪心・嘔吐の頻度が高いことは2試験で共通している。 再現性のある事象であることから、 進行再発胃癌の1次治療において、 考慮しても良いかもしれない。

トラスツズマブ デルクステカンの成績は先行試験とほぼ同様

DESTINY-Gastric02試験:欧米で行われた胃癌2次治療におけるT-DXdの第Ⅱ相試験

Eric Van Cutsem, et al: Trastuzumab deruxtecan in patients in the USA and Europe with HER2-positive advanced gastric or gastroesophageal junction cancer with disease progression on or after a trastuzumab-containing regimen (DESTINY-Gastric02): primary and updated analyses from a single-arm, phase 2 study. Lancet Oncol 2023 Jul;24(7):744-756.

本論文の先行試験であるDESTINY-Gastric01⁵⁾において、 トラスツズマブ デルクステカン群125例と化学療法群62例との比較では、 奏効率はトラスツズマブ デルクステカン群で51%、 化学療法群で14% だった (P<0.001)。 全生存期間は、 トラスツズマブ デルクステカンの方が化学療法よりも有意に延長した (中央値、 12.5カ月 vs 8.4カ月、 HR=0.59、 P=0.01)。 合計12例の患者がトラスツズマブ デルクステカン関連の間質性肺疾患または肺炎を併発して、 トラスツズマブ デルクステカン群では薬物関連死亡1例と報告されている。

本論文の対象症例は、 日本を含まない欧米での試験結果であるが、 79例がトラスツズマブ デルクステカンによる治療を受け、 奏効率は30例(38%)、 うち完全奏効が3例(4%)、 部分奏効が27例(34%)で観察された。 有害事象は10例(13%) に発生し、 うち治療関連死亡は2 例(3%)であり、 間質性肺疾患または肺炎が原因だった。 先行試験の結果とほぼ同様と思われる。

現在、 日本も参加する第Ⅲ相試験DESTINY-Gastric04が進行中である。

参考文献

  1. J Clin Oncol 2019; 37: 1296-1304
  2. Gastric Cancer 2022 Jan; 25: 188-196
  3. J Clin Oncol 41, no. 16_suppl (June 01, 2023) 4000-4000.
  4. Lancet 2023; 401: 1655-1668.
  5. N Engl J Med 2020 Jun 18; 382: 2419-2430

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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