なぜ説明と同意だけではいけないの?
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2ヶ月前

なぜ説明と同意だけではいけないの?

なぜ説明と同意だけではいけないの?
患者とのコミュニケーションで悩んだことのない医師はいないかもしれません。 新連載 「患者さんにどう伝えますか?」 では、 日本医科大武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之先生に、 コミュニケーションのコツなどを解説してもらいます。

患者さんとのコミュニケーションって必要?

患者さんとのコミュニケーションって聞くと 「苦手」 、「自分には不要」 と思われるかもしれません。 私も、 実はコミュニケーションが苦手でした。

臨床医は患者さんを相手にする仕事ですから、 必ず患者さんと対話をしなければなりません。 患者さんの中には、 仕事でなければ絶対に会いたくないし、 話もしたくない人もいるかもしれません。 医療行為は患者さんにとって必ずしもHappyなものではなく、 苦痛を伴うもの、 嫌なものです。

なぜ説明と同意だけではいけないの?

例えばレントゲン検査は被ばくがあり、 内視鏡検査なども苦痛を伴います。 薬には何らかの副作用があり、 手術に至っては体を切り刻まれるわけですから、 普通にふつうに考えると、 かなりの苦痛です。 病気がある、 病気の可能性があるから検査が必要だし、 治療が必要になるわけですが、 病気や病状は簡単に理解できるものではなく、 検査や治療も簡単にやれるものでもありません。

つまり、 患者さんに医療行為をする際には、 患者さんにとっては嫌な行為をするわけですから、 できるだけ患者さんにわかりやすく、 納得いくように説明し、 同意してもらうことが必要になります。 これがインフォームド・コンセント (IC) ですが、 実際の医療現場ではICがなかなかうまくいかない場合も多いです。

医師と患者のコミュニケーションギャップ

医師側としては、

「あの患者さんは、 いくら説明してもわかってくれない」

「あの患者は、 キャラに問題があるから大変だ」

「今日は、 シビアなムンテラが3件もあるから嫌だな」

このような状況は多々あるのではないでしょうか。

なぜ説明と同意だけではいけないの?

一方、 患者側としては、

「医師が目を見て話してくれなかった。 コンピュータばかり見ていて、 体をこっちに向け

てもくれない」

「専門用語ばかり話してよくわからない」

「話したいことがあったのに、 途中でさえぎられた」

「がんばってくださいと、 他人事のように言われた。 もっと寄り添った言葉がほしい」

などのケースが考えられます。

なぜ説明と同意だけではいけないの?

医師はたくさんの患者さんを相手にしなければなりません。 多忙な勤務医の実態として、 限られた時間の中で外来や病棟、 手術をこなしていかなければならず、 一人一人の患者さんに丁寧に時間をとって説明することは困難であるとも思います。

かといって患者さんへの説明をおろそかにすると、 患者さんが適切な医療を受けることを逃してしまうことにもつながると思います。

誤ったICの使われ方

ICは本来、 患者さんが医師から適切な情報を与えられた上で同意するという、 患者さんが主語として使われる用語であり、 医療者が“する”ものではありません。 英語でも患者を主語とし、 ”Patient give informed consent”のように使います。 医療者は、 ICを患者さんから“受け取る”ものなのです。

しかし、 日本の医療の現場では、 医療者が主語で 「ICする」 のように使っていないでしょうか。 これは、 ICが医療現場で医療者が主体であるように使っているからだと思っています。 つまり、 ICは裁判で訴えられないようにするため、 医療者の防衛手段としてICが使われているのが現状ではないでしょうか。

なぜ説明と同意だけではいけないの?

現代では患者さんが病院を受診すると、 造影CTの同意書や輸血の同意書、 感染症検査の同意書など多くの同意書にサインを要求されます。 さらに入院となると、 身体抑制の同意書、 臨床実習医学生に対する同意書、 血栓予防の同意書、 さらに一括同意書などと何の同意書なのかわけのわからないものまで書かせられます。 これだけ多くの同意書にサインさせられるのも大変だと思いますが、 どれだけ医療行為が理解できているのか、 ちょっと心配でもあります。

ICからSDM (Shared decision making) へ

このように、 ICが医療の防衛手段として使われるようになった背景としては、 医療訴訟が増加したこともありますが、 患者側の医療者への不信、 信頼関係が低下したことも一因です。 このような医療不信を改善するためにも、 医師と患者のコミュニケーションを良好にすることは大切です。 さらに時代は、 ICからSDM (Shared decision making : 共同意思決定) へ進んできています。 次回はSDMについても紹介します。

なぜ説明と同意だけではいけないの?

こちらの記事の監修医師
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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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