「ICします」 はもうやめよう
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6ヶ月前

「ICします」 はもうやめよう

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「ICします」って言葉を日常的に使っている医師も多いでしょう。 果たして患者とのコミュニケーションにおいて有効なのでしょうか。 連載 「患者さんにどう伝えますか?」 の3回目では、 日本医科大武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之先生にポイントを解説してもらいます。

若手医師「ゼクのムンテラしてきます」

大学病院に勤務していると、 いまだに「ムンテラ」の用語を耳にします。 しかも、 若手の医師が「〇号室のAさんステっちゃったんで、 これからゼクのムンテラしてきます」などとヘンテコな和製ドイツ語を使っていました。

これらは、 医療業界の隠語とも呼ばれる用語です。 大昔はカルテをドイツ語で書く医師がいましたが、 現代医療では、 英語が主体になり、 ドイツ語を使うことはほとんどありません。 カルテはなるべく日本語で記載することが推奨されており、 略名を使う場合には、 最初はフルスペルアウトして、 以後略名を使うように指導されます。

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隠語で“厳しい”状況を緩和?

それでもなお業界用語が残っている背景には、 「業界用語を使うことで、 厳しい状況が表面的に緩和されるのでは?」との心理が無意識に働いていることが考えられます。 例えば、 「ステる」はドイツ語のSterben (死亡する)、 「ゼク」はSektion (病理解剖) を語源とします。

がんに関しては、 肺がんはLK (Lungen Krebsが語源)、 胃がんはMK (Magen Krebsが語源) のように、 患者さんにもわからないよう「がん」という言葉をなるべく使わないようにしてきました。 「がん」がポピュラーになってきた現代社会で、 今さら業界用語を使う必要はないと思いますが、 先日、 同僚から「あのMKの患者さんのムンテラどうなっているの?」と聞かれました。

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「ムンテラ」はパターナリズムの象徴

ちなみに「ムンテラ」はドイツ語の「Mundtherapie」が語源とされています。 Mundは口、 Therapieは治療を意味し、 つまり 「口で治療する」 が直訳です。 ただ、 実はムンテラは和製ドイツ語であり、 「Mundtherapie」というドイツ語は存在しないそうです。 単純に「説明」と言えばいいのに、 どうして業界用語を使ってきたのでしょうか。

一昔前までの患者への説明は 「やっかい」「面倒」という認識が一般的でした。 そのため、 なるべく患者から質問や意見などされず、 自分たちの方針に従ってもらうよう、 「うまく言いくるめてしまえばよい」 とのパターナリズム (医療者が患者の意思を問わずに意思決定をするもの) が横行していました。 この象徴が、 「ムンテラ」であったように思います。

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ICはするものではない

パターナリズムの反省から、 「ムンテラ」はいつしか死語になりました。 代わりに使われるようになったのが、 IC (インフォーム・ドコンセント) です。 「あの患者に、 いつICしますか?」などとよく使われています。

しかし、 この用語の使い方は、 「ムンテラ」を「IC」に代えただけであり、 本質は変わっていません。 つまり、 「ムンテラ」も「IC」も主語が医療者だからです。

本来のインフォームド・コンセントは、 医療者が“する”ものではなく、 患者が主語になり、 医療者から説明を受け、 患者が“同意する”ものです。 医療者は、 ICを“する”のではなく、 患者から“受け取る”ものです。 この違いは非常に大切です。

記録のみが重視され、 説明がおろそかに

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ICについて残念に思うのは、 「IC記録」や「同意書の記録」のみが重んじられ、 患者への丁寧な説明がおろそかにされていることです。 これは昔ながらのパターナリズムと同じであり、 説明だけして、 同意書さえ書いてもらえばよいのであれば、 「ムンテラ」時代とまったく変わりません。

現代の医療現場で、 かつての「ムンテラ」と同じノリで「ICします」と使われていることに危機感を覚えるのは私だけでしょうか。 インフォームド・コンセントと言われて久しいですが、 明日からでも「ICします」はやめてほしいと思っています。 「説明します」「面談します」でいいのです。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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